その8.「ナットの交換」

※参考程度にご覧いただいて、作業は自己責任でお願いします。 

「ナット」は弦がひっかかる大事な部分です。弦の振動がギター本体に伝わる部品のひとつ。
弦の振動を殺さない硬さ、各弦の太さに合った幅の溝を切ったりしなきゃいけないのですが、
量産ギターはなかなかそこまで手がまわらないというか、手間をかけられないというか…8割くらいの仕上げなんですね。
まぁ「細かい部分はオーナーによって感覚が違うので、調整の余白を残している」、とも言えますが…

もう一手間かけてあげれば、開放弦の鳴りや低音弦のタッチ、チューニング精度はよくなりますよ。


お預かりしたギターのナットは劇的に欠けています。これだと3、4弦の0フレット(=開放弦)の位置が変わってしまうね。
しかも1弦と2弦の間にヒビが入っていて、開放弦の鳴り方がイマイチなのもこれが原因でしょう。

弦をはずすと破損していたナットはあっさりと取れました。プラスチック製でしかも取り付けが甘い。
コストや加工の事を考えればプラスチックや樹脂なってしまうのが量産ギターの弱点のひとつなんです。

ナットの接着面がきちんと接していなかったので塗料が流れ込んでいました。
ノミや棒ヤスリで接着剤を削り取り、平面を出します。

交換用のナットを用意します。素材は昔ながらの牛骨で、価格は420円でした。
購入時はなるべく平面かつ直角に加工されているものが選べると作業が若干楽になります。
フェンダースタイルのナットは薄いので、もう少し安いです。

今回購入したナットの寸法は、a=9.5mm、 b=6.4mm、 c=46.0mmでした。

取り外したオリジナルのナットのサイズは、高さ(a)=7.6mm、たて(b)=5.4mm、幅(c)=43.5mm、弦間隔=7.1mm。

全く同じ大きさになるまで、削ります。交換用のナットは「だいたいの」直角と平面が出ているので、
それを崩さないようにゆっくり慎重に作業します。とにかく慎重に…。

おそらく骨密度が関係してるのでしょうが、ものによって削れるスピードが違いますよ。
牛骨特有の、カルシウム臭と戦いながらの作業になります。 マスクはしたほうがいいです。
「ぎんなんの匂い」といえば想像つきますかねー??

ネックと指板に接する面がしっかりと密着するように仕上げます。 大きさが揃ったらヘッド側の角(赤矢印)を削って丸くします。

とにかく黙々と、ひたすら削ります…正直、大変で地道な作業。。ここまで2時間くらいかな。




次は弦がはまる溝を切ります。これも重要な作業です。
溝切りには専用の工具があって、オイラはアイバニーズ社のものを使っていますがサイトで見かけませんね。
自作派の味方・ホスコのHPは充実しています。 http://www.hosco.co.jp/

ナットを指板面側から見た画です。1弦~6弦までの長さが35.5mmだったので、「5で割り算」して7.1mm間隔で位置決めします。
間違って「6で割り算」すると7弦ギターになるので注意!(経験アリです・笑)
この方法は「各弦の中心から均等な長さ」を割り当てるセッティングになります。

また、隣同士の弦間を均等な長さにするセッティングもあります。

些細な違いですが、こちらのほうが弾き易いというひともいますね。
実際、ギターの運指で1本の指で複数の弦を押さえる場合、弦の真上を押さえているとは限りません。

例えばディープ・パープルの"スモーク・オン・ザ・ウォーター"だと(例えが古いね)、
4弦5フレットと5弦5フレットを同時に押さえますが、指のはらは4弦と5弦の間を押さえてますね。
無意識のうちにそう押さえちゃってる(赤色楕円)…って表現が正解でしょうか。

弦間が同じなら運指もスムースになりそうな気がします。
あくまでも個人的な見解ですが、両方のセッティングのギターを使っても劇的な違いがあるようには感じません。
微妙な違いはあります。ですが「どっちが正しい?!」ってレベルの問題ではないように感じます。もう感覚で判断ですね。
ブルース・リーの名言「Don't think !, feeeel !!」を思い出します。

ナットを横から見た画です。ナットの溝切り線は曲線になるように仕上げます(緑色点線部分)
この曲線が物凄く重要です!開放弦の高さは各弦の3フレットを押さえたときに1フレットと弦が接触するかしないか

くらいの加減です。

頂点の角(赤矢印)を少し削って落とすと手に当たっても痛くないです。
ポリッシュでナット表面のツヤ出しをすると表面保護にもなります。
最後に、瞬間接着剤でナットを接着して終了です。 

交換作業はこれで終了ですが、馴染むまでに手直しをしたりと時間が必要になります。
物凄く繊細で疲れる作業ですが、きちんと手を入れてあげれば効果絶大! お疲れさまでした~♪